若者に贈る年金早わかり《スペシャル》【英国の年金制度】

誤った記事に惑わされるな。上乗せ年金を掛けず、低年金と愚痴をこぼす人々に、英国の定額年金と日本の年金制度の違いを伝える。(2025.9.15 英国の年金事情をupdate)

英国の公的年金は日本とは異なる「定額年金」(2016年4月~)

英国では、2016年4月に新しい公的年金制度「1層型定額年金制度」がスタートした。

1層型定額年金制度は、所得再分配効果を高めた年金で、被保険者の支払う保険料は報酬比例だが、給付は定額(給付の満額が定額)という特色がある。英国の1層型定額年金制度では、自営業者と被用者(サラリーマン)区別されず、同一の年金制度に加入する。このため、当然、自営業者にも報酬比例部分の保険料納付義務がある。英国の1層型定額年金制度は長寿化が進行する中での給付水準維持が目的とされる。

※ 英国の自営業者には旧年金時代から報酬比例部分の保険料納付義務があった。
※ 英国では2011年に定年制も廃止された。

英国の公的年金制度
➊保険料は報酬比例だが給付は定額
➋自営業者と被用者の区別がない

③年度毎に満額給付額が決まる
④給付額は保険料拠出年数に比例
(現役時代の所得とは無関係、満額給付は35年加入)
⑤受給資格は保険料拠出10年以上
(10年未満の場合、公的年金は受給できない → 公的扶助で救済)


※ 2020年度の満額は週£175.20 だったが、4年間で26%上昇して、2024年度には満額 週 £221.20(年1万1502ポンド)となっている。これは物価上昇を上回るペースで、危惧する声もある。
(参考)政権交代は2024年7月だった。

満額給付のための有資格年数は35年で、旧来の基礎年金(英国)よりも5年長い。また、10年以上の有資格年数がない場合、公的年金は一切受給できない。給付水準は旧来の基礎年金を上回るが、報酬比例部分が廃止されたため,一定以上の年収のある被用者の公的年金受給額は減少している

比較できない比較

公的年金に関する問題ある記事(PRESIDENT Online)
おかしな論調だと感じたが、英国で 2016年 に 2層型年金制度が廃止されたことを知り、その理由が分かった。

2016年4月6日以降の受給権者から、英国の公的年金は「1層型定額年金」1本で、自営業者・被用者(サラリーマン)の区別なく所得再分配された(←報酬比例部分の給付のない)定額年金を受け取っている。片や、日本では、自営業者の国民年金と被用者の厚生年金(公務員の旧共済年金を含む)は明確に区別されていて、被用者(サラリーマン)の厚生年金には納付・給付共に報酬比例部分がある。<高度に所得再分配された英国の定額年金>と、(報酬比例部分の納付がなく、所得再分配もできない)<日本の自営業者の国民年金(いわゆる基礎年金)>を同一視した乱暴な論理で、自身が自営業者であることも、制度の誤解を助長したのだろう。当該記事ライターの頭には、「日本にいると基礎年金しか受給できない」とか「(自分が払っていたのだから、)日本の自営業者も報酬比例部分の保険金を納付しているだろう」とか「サラリーマンも同じだろう」などという思い込みがあるのではないか。

日本側にも問題があり、本来は2層構造とすべき(報酬比例部分を導入すべき)だった不完全な国民年金が、財政不安に陥るや、その解消のため、「財政調整」と称して、厚生年金の積立金や負担を、当然のごとき態度で投入したことも、用語上の混乱と誤解を生み、さらには、このような誤った認識が広がるのを助けたようだ。報酬比例部分のない「低額」の定額年金である「国民年金」を作ってしまったことは大失敗だが、日本の自営業者には報酬比例部分を納入していない分、自己資金的には余裕があるはずで、上乗せ分の年金制度である「国民年金基金」や「農業者年金」へ積極的に加入すべきだろう。(実際の加入率は各々12%/5%と頗る低率)

互いに該当する項目のない制度の比較は、本来、無理で、前提条件を明確にしない国別比較は乱暴な論理だ。この意味から、この記事はミスリーディングで排除されるべきだ。

英国の公的年金は「国民保険」の根幹

英国には国民保険(1911年、国民保険法)という、年金・失業・労働災害に係る給付を総合的・一元的に取り扱う制度があり、公的年金はその根幹をなしている。公的年金は国民保険の給付総額の9割以上を占めるが、日本のように公的年金のみの保険料ではないことにも注意して保険料率を参照してほしい。なお、英国に介護保険制度はなく、介護は原則自己負担だ。
¶ 2000年以降ポンドは、高値235.6円⇔安値126円を上下しており、最近では200円近いが、185円程度が通常かと思われるため、以下の記載は1ポンド185円で計算した。

英国の国民保険保険料
〈National Insurance〉
第1種保険料
=「被用者と事業主」が負担

<被用者負担>:週£183.01~962 の所得に12.0%,週£962超に2%追加
(年収換算)£9,543(177万円)以上に12% + £50,161(928万円)超に2%追加


例1)年収400万円(£21,622)⇒£2,595(48万円
例2)年収700万円(£37,838)⇒£4,541(84万円)
例3)年収1,200万円(£64,865)⇒7,784+29=£7813(145万円)

<雇用者負担>:週169.01ポンド(年8,812ポンド)を超える被用者所得に13.8%の保険料

例1’)年収400万円(£21,622)⇒£1,665(31万円)
例2’)年収700万円(£37,838)⇒£3,773(70万円)
例3’)年収1,200万円(£64,865)⇒£7,287(135万)


第2種保険料自営業者
= 年間純利益£6,475(120万円)以上の自営業者
保険料は定額で 週£3.05(年£159=29,415円)

※£6,475未満 → 納付義務なし

第4種保険料自営業者
= 年間純利益£9,501(176万円)以上の自営業者
年間純利益£9,501~£50,000に9 %,£50,000(925万円)超は2 %追加

例4)年利益700万円(£37,838)⇒£2,550(47万円)
例5)年利益1,200万円(£64,865)⇒£5,280(98万)


第3種保険料
= 最低所得額以下対象任意加入
保険料は週£14.65(年£762, 14万円)

英国の定額年金2025年の満額は月およそ17万7000円※¹で、日本の年収600万円クラス※²の被用者年金に相当する。保険料でみても、英国の国民保険の保険料は年収400/700万円で各々79/154万円なので、日本で年収400/700万円の被用者が負担する保険料(年70万円/125万円、雇用者負担含む) とほぼ一致している。つまり、英国の(高度に所得再分配された)定額年金制度は年収600~700万円クラスでバランスが取れるように設計されている。それ以上の層には、2層型年金と比較して、給付は減額となり、それ以下の層には増額となる。

日本と英国の年金制度の大きな違いは、自営業者の報酬比例部分の取り扱いだ。英国では自営業者も報酬比例部を負担しており、徴収漏れを防ぐため、税金と一緒に納付させるようになっている。保険料は、年収700万円の自営業者で年47万円、年収1,200万円なら年98万円で、英国のサラリーマンよりは少ないが、日本の自営業者が年22万円しか負担していないことを考えると2倍以上の負担額となる。

※¹ 本文は1ポンド185円で統一した。
※²
同じ年収が40年間続いたと仮定した場合

英国では、年収120万円未満の場合、保険料の納付義務はなく、公的年金の受給資格も得られない。年収120万円から176万円の場合には、年2万9千円の保険料を納付すれば公的年金の資格が得られ、35年間納付できれば、65歳から満額の年金が受け取れる。最低所得以下の場合でも、年14万円を35年間にわたり第3種保険料に廻すことができれば、65歳から満額の年金が得られるようだ。

年金受給には保険料納付が必要

当該記事ライターの肉親である神主さんの年金が少ない理由は次のように推測できる。神主(神職)は、(自営業者の)国民年金に加えて、神社本庁独自の年金制度である「教職員年金」(任意加入の上乗せ年金)に加入する例が多いが、任意加入なので、未加入の神職もいるようだ。自営業者が(余剰資金を活用して)上乗せ年金を積んでいなかった場合、年金額は驚くほど少額となることは周知の事実だ。このため、自営業農家には「農業者年金」、個人事業主やフリーランスには「国民年金基金」という上乗せ制度があり、神職には神社本庁の「教職員年金」がある。この辺りを知ってか知らずか、宗教家として指導的立場にある方が、誤った理解から不満を述べるのは感心できない。ライター本人が英国で受給している月額約18万4000円(1ポンド192円)の年金は、2024年の英国公的年金(英国では自営業者からも報酬比例部分を徴収している)の満額で、比較するなら、対象は日本の被用者(会社員など)年金かと思われる。日本の被用者の平均公的年金受給額は「月額166,606円」で、為替レート以上の差はない。日本の被用者公的年金には報酬比例部分が含まれるので、例えば、年収が生涯1000万円だった場合には、受給額は月21万円以上となるなど、英国の定額年金を上回る層も存在する。

各国にみる社会保障施策の概要と最近の動向 イギリス(「2010~2011年 海外情勢報告」)https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kaigai/12/pdf/teirei/t275-287.pdf
英国の年金制度(2015年末時点)<日本国厚生労働省>
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/pdf/shogaikoku-england.pdf
英国の社会保障(「2016年海外情勢」第4節)<同> https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kaigai/17/dl/t3-08.pdf
UK2021 https://www.nensoken.or.jp/wp-content/uploads/UK2021.pdf
英国国民保険制度と制度を取り巻く状況 https://www.nensoken.or.jp/wp-content/uploads/rr_r04_09.pdf(2022.10)
英国国民保険制度と制度を取り巻く状況(第2版) https://cis.ier.hit-u.ac.jp/Japanese/dp698.pdf(2022.12)