若者に贈る年金早わかり/日本の年金/賦課方式とは何か/正解は「年度払い方式」

年金について、中高校生向けにいくつか書いているが、今回は、巷で誤解されることの多い 賦課方式 について考えてみた。

賦課方式とは何か

年金の仕組みを解説するサイトには、通常次のように書かれている。『日本の公的年金制度は賦課方式で運用されていて、その時々の現役世代が支払う保険料で高齢世代の年金給付を賄う仕組みとなっている』…さらに『現役世代が年金受給世代を支えている/世代間の仕送り』とまで表現しているサイトもある。賦課は、本来、租税徴収に関する用語で、広辞苑では「賦課=租税などを割りあてて負担させること」と解説されているが、社会保険の分野では賦課方式に徴税の意味ない。「賦課方式保険料とはその年度の収入が当該年度に必要な支出に等しくなるように設計された保険料」(平凡社「世界大百科事典」<保険料>)で、同<年金財政方式>の項には「賦課方式は年金制度の運営される期間を1年間程度の短期間に区切り,この期間内だけでの収支の均衡を考えていくもので,賦課方式のもとでは,拠出水準は制度の成熟につれてしだいに上昇する」と記されている。賦課方式に世代間云々の意味はなく、現役世代が支える制度でも、仕送りでもなく、単に社会保険料(あるいは保険料一般)の取り扱い方法を示す用語に過ぎない。英語では “Pay-as-you-go” というが、この分かりやす用語がなぜ「賦課」と誤解を生むような語に訳されたのか、いずれその源を探ってみたいと思う。

賦課方式(Pay-as-you-go:PAYG)

“Pay-as-you-go” 自体は、「その都度払い」といった意味で社会生活において普通に使われる。必要な時に、必要な分だけ、対価を支払うことで利用できるサービス(電話やネットの従量課金制や公共交通機関のプリペイド方式など)を指す語だが、アメリカの社会保障制度の分野では「財務原則を示す用語として使われてきた。公的年金に関して言えば、年金支払いというサービスを提供する側のコストを最小にするための原則を示し、単に、手持ち資金で運用するとコストが最小にできるという意味しかない。年金を支払う側の原則に過ぎない用語”Pay-as-you-go”に、「賦課」(「賦」: 役所が人民にわりあてた労力や財物を強制的に徴用する<漢字源より>))を与えたのは不適切だった。

コスト抑制の財務原則
“Pay-as-you-go”
=「年度払い」が正解

“Pay-as-you-go : PAYG”は社会保障の専門用語で、平凡社の「世界大百科事典」<賦課方式> 地主重美著には、「社会保障制度を計画的に運営していくためには,給付と費用のバランスを維持していくメカニズムが必要である。これは財政方式とよばれ,賦課方式 pay‐as‐you‐go system と積立方式 funding system がある。賦課方式とは,当年度の給付費用当年度の租税ないし保険料によって調達しようというものであり,医療保険や失業保険のような短期保険のほか,年金保険のような長期保険においても欧米諸国で広く採用されている。」と書かれている。(当年度の給付を当年度の保険料で賄うことで、世代と解釈するのは間違い)

“Pay as you go” は、積立金をほとんど持たないシステムであるため、保険料率や保険料がすべての財政方式の中で最も小さく(=効率よく)なる。積立金がほとんどないので、破産のリスクがあるシステムには適用できないが、破産の可能性が極限まで低い公的年金や一部の医療保険に適用されている。保険金(ここでは年金給付)を分配する原則なので、既に保険料を払い込み終わった世代が、契約上、分割払いを受ける権利を主張するのは当然だ。

世代間との言い方は日本独自かと思ったが、フランスでも世代間の連帯(Solidarité intergénérationnelle)という理念が唱えられていると聞き驚いた。そう考える人が少ないので唱えられているのかもしれない。

修正賦課方式

現在の日本の公的年金制度は、「修正賦課方式」となっている。これは、当年度の保険料をベースにしながらも、将来の給付に備えて一定の積立金(準備金)を保有する方式で、2025年度第3四半期現在で 293兆円余りのGPIF積立金(年金積立金管理運用独立行政法人)が運用されている。これは積立金額ではノルウェーに並ぶ水準だ。

主要国の公的年金
積み立て金事情

英国の公的年金:賦課方式(Pay-as-you-go:PAYG)で、積立金はほとんどなく、2ヶ月分程度と言われている。英国では確定給付型(DB)から、加入者個人が運用責任を負う確定拠出型(DC)への移行が進んでいる。

米国の公的年金 Social Security:賦課方式(Pay-as-you-go)を採用、積立金はあるが、2034年頃に枯渇する可能性が指摘されている。給付額の削減も懸念されていて、少子高齢化に伴う財政悪化が大きな課題となっている。米国では私的年金の積立も必要だ。

フランスの公的年金:賦課方式(répartition)で、世代間の連帯(Solidarité intergénérationnelle)という理念に基づいて運営されている。将来の財源不足を補う目的で「年金積立基金(FRR:Fonds de réserve pour les retraites)」が1999年に創設されたが、日本のような巨額な積立金は保有していない

ドイツの公的年金:賦課方式が主体で、巨額の積立金は保有していない。財政上の急変に対応するため「変動準備金」が給付費の1か月分程度維持されている。年金財源は保険料が主だが、給付の約20%以上が国庫負担(2022年: 約862億ユーロ)で、一般財源等から年金保険へ投入されている。その他、公的なものではないが、企業年金や個人年金(リースター年金など)の積立金が約5570億ユーロ(約100兆円)存在し、公的年金を補完している。

スウェーデンの公的年金:積立金が AP基金と呼ばれる5つの基金によって運用されていて、2024年4月現在の積立残高(バッファーファンド)は 2,000億ユーロ(35兆円)に達している。また、年金保険料の一部(2.5%分)が積立方式(プレミアム年金)として個人の運用口座へ拠出される。スウェーデン方式は、経済状況に合わせて給付額が調整されるため、積立金が枯渇しにくい仕組みになっている。

デンマークの公的年金:賦課方式の「基礎年金」と、強制積立方式の労働市場年金(ATP)」の2階建て構造となっている。雇用されている労働者が強制的に加入する2階部分のATPは、積立方式で、 労働時間や収入に基づき計算され、原則として雇用主と従業員が折半して積み立てる。ATPは巨大な運用機関でもあり、その積立金は約900億ユーロ(17兆円)以上で、世界的に見ても非常に高い運用パフォーマンスを示している。

ノルウェーの公的年金:主に北海油田からの石油・ガス収入を原資とする「政府年金基金グローバル(GPFG)」に積立・運用されている。運用資金は1.4兆ドル(225兆円)を超える世界最大級の政府系ファンド(SWF)として、世界中の株式や債券に長期・分散投資し、持続可能な年金財源を築いている。

イタリアの公的年金:公的年金の所得代替率(年金が前の給与の何割にあたるか)が約79.5%と高い。支給自体は賦課方式が主体だが、退職一時金(TFR)が、退職時に補足的年金へ移管される仕組みが主流。高い所得代替率を維持するため、公的年金給付のための財政負担が非常に大きい。イタリアの年金制度は現役世代の保険料と高い税財源を投入して、高い給付を維持している状況と言える。

韓国の国民年金(NPS):保険料率が9%と低く、結果として支給額も高くないため、高齢者の貧困率が高い要因となっている。積立金は約1,500兆ウォン(160兆円以上)と、世界的に見ても大規模だが、超少子高齢化で2050年代の枯渇が予想され、保険料率引き上げなどの改革が急務とされている。

中国の年金制度:中国の年金システムを詳しく紹介した記事があった。👇URL記録/未要約
習近平が”年金”に頭を抱えている…5億人の農民は月5000円だけ、中国が放置し続けた”年金格差”の実態(3種の年金システムからなる)