刑事司法を改革せよ<その3>「兵庫少女違法勾留事件」ー 勾留請求/勾留延長請求と裁判官~なぜ却下できないのか

刑事司法における身柄拘束(勾留/勾留延長など)の決定(裁判所)は、捜査側からの資料のみで行われるため、(確証バイアスが生まれ)却下しづらいと言われる。このため、「準抗告」という弁護側の対抗手段が用意されていて、弁護側の主張を述べる機会がある。不条理を感じた弁護側は、躊躇なく準抗告の申し立を行うべきだ。

<事案>兵庫県内の障害者施設(施設名非公表)で当時16歳の女性が暴行容疑で逮捕され、不起訴となったものの心身の不調で死亡した事件。担当は、明石警察署・神戸地方検察庁・神戸地裁。少女は、家族(母親)が経営に携わる障害福祉事業所の法人に所属する女性職員として勤務していた。事件は2025年2月で逮捕は6月。未成年であるにも拘らず接見禁止で18日間拘束された。死亡時期は非公表だが、釈放から約半年後で2025年12月頃。

未成年者への「勾留請求」はなぜ認められたのか

逮捕後、検察からの「勾留請求」に、裁判所が(安易に)許可を出したため、少女は未成年にも拘わらず成人同様の扱いを受けること(=少年法による保護が受けられない)となった。少年法による「保護」と「逮捕・勾留」の仕組みについては、<その4>(次回)で再度検証するが、この事案のように、逮捕後に裁判所が勾留を許可してしまった場合、その瞬間から、未成年の被疑者は成人扱いとなり、少年法による保護は受けられなくなる。これは、法の精神を歪める運用だが、実務ではそうなっている。

逮捕後の身柄拘束期間は、①逮捕から勾留請求までが72時間以内(刑事訴訟法 第205条2項)〔内訳は、警察で48時間以内(刑事訴訟法 第203条1項)および 検察で24時間以内(刑事訴訟法 第205条1項)〕で、検察官による勾留請求を裁判官が認めた場合には、②原則10日間の勾留(刑事訴訟法 第208条1項)がこれに加わる。この場合、検察官が勾留の請求をした日から10日以内に公訴を提起しないときには、直ちに被疑者を釈放しなければならないが、「やむを得ない事由」がある場合には、裁判官に延長を請求できる。勾留延長が認められれば、さらに最大10日間(通算で最大20日間)の勾留が可能となる。最初の72時間を加えると、合計23日間という、国際的にも極めて長い拘束と言える。(実務では、やむを得ない事由があるとして、勾留の「70%」が延長され、延長の許可率は「99.7%]と言われる)
少年法第48条第1項(勾留の厳格な制限)で「勾留状は、やむを得ない場合でなければ、少年に対して、これを発することはできない」と規定され、同第2項(身柄の拘禁場所)では「少年を勾留する場合には、少年鑑別所にこれを拘禁することができる」(警察署の留置場ではない)と指定されている。つまり、少年の勾留は「どうしても身柄を拘束しなければ捜査ができない重大なケース」(逃亡や証拠隠滅のおそれが極めて高いなど)に限るとされているが、実務では「原則と例外の逆転」が起こり、成人と同じように警察署の留置場にそのまま勾留されるケースが非常に多い。

<勾留>逮捕後の身柄拘束には裁判所の許可が必要で、期間は原則「10日間」だが、実務では「やむを得ない事由」があるとして、勾留の延長が請求される。勾留延長の許可があると、最大10日間が加わり、勾留は最大「20日間」となるが、事実上、この流れが標準となっている。この勾留期間は、国際的には、テロ事件以上の長さと言われる。また、未成年の勾留が許可された場合、自動的に成人扱いとなる運用なので、弁護側は準抗告の準備をするなど、急ぎ対応が必要だ。

<勾留延長>(本件)〔1回目の勾留延長〕担当検察官が10日間の勾留延長を請求し、裁判所は5日間の延長を認めた。〔2回目の勾留延長〕延長期限を前に検察が再度の延長を請求したが、令状担当の裁判官はこれを却下した。この決定に対し、検察側が神戸地裁に準抗告を申し立て、合議体(裁判官3人)が決定を覆して3日間の延長を認めた。本件において、弁護側による「勾留決定や勾留延長決定に対しての準抗告」は行われていない。過酷な取り調べや身柄拘束に対して弁護側は検察へ抗議は行ったものの、勾留決定や勾留延長決定そのものに対して準抗告を申し立てた事実は記録されていない。

日本の刑事訴訟法では、弁護側は検察官による勾留請求に対する裁判官の「勾留決定」や「勾留延長決定」に対して、刑事訴訟法428条に基づく「準抗告」(裁判官に対する不服申し立て)を合議体(地方裁判所では3人合議体)に対して行うことができる。ただし、合議体によって行われた決定には準抗告はできない。この場合、さらに不服があるなら、憲法違反または最高裁の判例違反を根拠にした最高裁判所への「特別抗告」や、並行した「勾留取消」(勾留の理由がなくなった)や「執行停止」(病気治療など)の書面提出を進めるのが一般的な対抗手段となる。

未成年に「接見禁止」が付されたのはなぜか

未成年かつ前科のない少女に対して「接見禁止」という極めて重い処分が下されたのは、「否認」と「関係者の近さ」が原因であったようだ。母親が事件現場となった施設の管理側であることから、「釈放や家族との面会を許せば、母親や施設を通じて被害者とされる利用者や他の目撃職員に圧力をかける、あるいは証言を歪める恐れがある」と判断したとみられるが、これでは検察と裁判所が共に、推定有罪で動いているようで、国民の眼には違和感しかない。

<接見禁止>「接見禁止命令」は、刑事事件で逮捕・勾留された被疑者や被告人が、弁護士以外の外部の人間(家族や友人など)と面会や手紙のやり取りをすることを禁止する決定で、通常は、検察官の請求で裁判官が決定するが、裁判官が自らの職権で決定することもある。「①証拠隠滅のおそれ/②逃亡のおそれ/③組織犯罪の疑い」と判断された場合に接見禁止が決定されることが多いが、本件の場合は、少年法による「保護」の理念を完全に逸脱している。さらに「事件から4ヶ月を経ての証拠隠滅は不自然」かつ「逃亡先も想定しがたい」ことから、正当な捜査行動ではなく、精神的虐待に近い違法な心理的圧迫であったと批判されている。「接見等禁止」処分のうち、特定の人物(今回は母親などの親族)を面会禁止の対象から除外することを求める「接見禁止の一部解除申立て」が今回行われたが却下されている。弁護側による、これに対する準抗告は行なわれていない。

「接見禁止」発令の流れ】
警察(証拠隠滅の恐れを検察に具申)
 ↓
検察官(精査のうえ、裁判所に勾留請求と同時に「接見禁止」を請求)
 ↓
裁判官(請求を審査し、接見等禁止決定を発令)★第三者の立場から請求の妥当性を厳格に審査★

【変更・解除の流れ】
弁護士(裁判所に対し「準抗告」や「一部解除」を申し立て)
 ↓
裁判官(検察官に「求意見」として意見を聴取)★決定権は裁判官にあるが、必ず検察官に意見を求めるプロセスがある★
 ↓
検察官(「異議なし」「しかるべく(裁判所の判断に任せる)」等の意見を回答)
 ↓
裁判官(最終的な解除・一部許可の決定を下す)
日本の刑事手続きにおいて、裁判官が下した接見禁止の決定やその解除却下の判断に対しては、刑事訴訟法第429条に基づき、裁判所に対して処分の取り消しや変更を求める「準抗告」を行うことができる。

検察官・警察官が少年法の理念を忘れ、
裁判官が「人権防波堤」の役割を放棄する

検察官・警察官は行政職で、裁判官は司法職と、三権分立の観点からは互いに独立して、厳しくチェックすべき立場だが、公務員である点と、三者とも、上意下達の強固な階層社会の人間であることから、考え方(脳の癖、バイアス)は似てくるようだ。特に、検察官と裁判官は同じ司法修習所で学んだ同朋であり、司法界の人間という仲間意識が強く、意見は「一致しやすく」、また「一致させやすい」傾向がある。

彼らに共通するのは「確証バイアス」で、「正義の実現」という認知の歪みから、 捜査の初期段階あるいは令状発行を依頼された時点で「この人物が犯人に違いない」と確信すると、その見立てに合致する証拠や自白ばかりを見るようになる。また、上意下達の強固な階層社会では、同調圧力が働き、組織の「前例踏襲」も重視される。さらに、医療や福祉の現場でも見られる現象だが、過酷な犯罪捜査を日常的にこなす中で、自身のバーンアウト(燃え尽き症候群)を避けるため「対象者から心理的な距離を置くよう(人間味のない冷淡な態度をとる=「脱人格化 Depersonalization」)になる。さらに、日本の刑事司法制度が、自白を重視する構造から抜け切れていないため、取り調べ担当者に加わる強いプレッシャーも判断を歪める。

令状判事の場合>令状判事(令状を審査する裁判官)についてみれば、大量の請求を連日一人で裁き(バーンアウトを避けるための脱人格化)、しかも審査は「捜査機関側の書面のみの一方的な報告書」で(確証バイアス)、ストレスを感じながらも、組織内の評価制度にも対応せねばならず(同調圧力)、独自の憲法感覚や人権派の判断は下しにくい環境から、無難に前例を踏襲する「自己保身」の精神が生まれる。

令状審査にAIを活用>AIなら、「確証バイアス」も「同調圧力」もなく、「バーンアウトもしづらい」ため、今回の例のように「年齢を無視して、機械的に令状を発行する愚=少年法無視)は避けられる。AIの採用については、AIの判断基準や自己学習、AIの誤りへの対応など、課題も多いが、少なくとも16歳の少女の命が絶たれることはなかった。


引き続き、「少年法が無視される仕組み」「刑事司法改革における5つのアプローチ」「裁判官訴追委員会への『罷免の請求』(付 担当検事の懲戒処分を求める『請願書』)」を予定しています。