日本の年金
国民年金/基礎年金
「国民年金」「基礎年金」、これらは年金制度を指す言葉なのか、年金の構成要素(1階部分)を意味する用語なのか、納得できる説明に出会わないのはなぜだろう。昭和36年[1961]に「国民年金法」で始まった「国民年金」制度は、昭和61年[1986]の「国民年金法等の一部を改正する法律」で「基礎年金」制度に変わったと言われるが、年金の構成要素(1階部分)を意味する用語としての「基礎年金」はそれ以前から、厚生年金の基礎部分として使われてきた。
自営業者等の年金を指す場合、「国民年金」と言うのが正しいのか、「基礎年金」と言うべきか、門外漢には判断が難しいが、厚生労働省のサイトには、括弧付きで「国民年金(基礎年金)」と書いてある。ますます、分からなくなるが、この、驚くほど低額の定額年金である「国民年金(基礎年金)」を「国民」付きの「年金」(公式英訳:Japanese National Pension System)と呼ぶのは、国民をあざ笑っているようで悲しいし、諸外国からは誤解されかねない。(実際、英国在住者からの誤解に基づく投稿 があった。)
なお、「基礎年金」の正式英訳は Basic Pension 、制度上の正式用語である「老齢基礎年金」は Old-age Basic Pension と呼ぶようで、”system” とは表現されていないので、年金制度については「国民年金制度」と呼ぶのが正しいのかと思うが、「基礎年金」を好んで使う識者(田中秀明氏)もいて、まさに年金カオスだ。
国民年金/基礎年金
問題点を列挙する
① 年金「財政面」が、正しく設計されていない(賦課方式の設計ミス)
➽ 保険料に報酬比例部分がない(年金原資の絶対的不足→破綻)
➽ 困窮層の加入が予想されたにも拘らず、社会保障費投入の準備がなかった(厚生年金とは異なる環境)
➽ 財政破綻の準備がなかった。準備なく、納付免除者の予想以上の増加→財政破綻→対策にオロオロ
② 年金「制度面」の未熟さ
➽ 所得再分配機能のない年金制度(納付が定額の年金はないだろう)
➽ 納付が定額なので、低所得層には「逆進性」年金となった
➽ 給付が極めて低額、生活できないレベルの低額定額年金
① 財政面および制度面での課題 → 報酬比例部分の納付を義務化する(マイナンバー制度の活用)
② 報酬比例部分義務化で、所得再分配機能を有効化する
③ 貧困層には「社会保障費」を投入して、納付の逆進性を解消させる(ユニバーサルクレジット考慮)
④ 標準的サラリーマン並みの給付を保てるよう財政調整もやむを得ない
⑤ 破綻時の対策は前もって準備する(プランBの準備)
国民年金/基礎年金
専門家の意見は…
政府が基礎年金と位置付ける「国民年金」には問題が多い
①保険料免除者が多い (第1号被保険者の半数約700万人が免除)
②保険料が逆進的(納付が定額)
③貧困に対応できていない(給付が低額)
と指摘し、老後生活のセーフティネットであるべき基礎年金の財源は全額、政府予算の一般財源とし、本来の基礎年金を実現すべきである。団塊ジュニアが75歳になる30年後(2050年頃)に向けて年金改革は待ったなしであり、速やかに国民的な議論を進めていく必要があると結んでいる。
①の保険料免除者数700万人(第1号被保険者1370万人の半数)には驚いた。厚生年金による財政調整のため、第2号被保険者(厚生年金加入者4500万人)および 第3号被保険者(同配偶者の専業主婦主夫800万人)の 保険料は、厚生年金制度で支払い済み(=厚生年金制度の基礎年金に加入している)として徴収されない。つまり、国民年金は、第2号および第3号被保険者を除いた「第1号被保険者」1370万人のための年金制度であるにも拘らず、その半数700万人が保険料を納めていないということになる。誰のための、何のための、年金制度か、この状態で果たして賦課方式が成立するのか(=年金制度が運営できるのか)と考えてしまう。英国が2016年の年金改革でこの層を切り離した理由もよく分かる。
田中秀明氏は、基礎年金の財源は全額一般財源とすべきと提言しているが、この提言は、一部、正しくないと思う。かつての「財政調整」で、厚生年金の積み立てや負担が基礎年金に投入されているため、厚生年金投入分を除いた一般財源化が正しいだろうが、将来危ぶまれる基礎年金制度の「再破綻」に備えて、ここでは厚生年金は分離しておくべきだ。
第3号被保険者の保険料免除を不当にバッシングする以前の問題だが、田中氏の視点で1点抜けているのが、豊かな自営業者が報酬比例部分を納付していないという点だ。英国の例では、被用者とほぼ同額の年金保険金の納付が義務付けられているので、これを参考に計算すると、保険料を納付できる700万人のうち半数が、年100万円を納付(年収600万円のサラリーマン相当)すれば、免除者の保険料は全て代替でき、少し余るので、給付額もいくらか増額できると思うが、計算ミスだろうか。
国民年金/基礎年金
貢献のない自営業者
自営業者には、「国民年金基金」「農業者年金」という、半ば公的な(農業年金は公的年金に分類される)任意加入の上乗せ年金があるがほとんど利用されていない。自営業者にはかなり豊かな層もあるはずだが、彼らにとって、国民年金は「おまけ」なのか、任意加入の上乗せ部分の加入率は驚くほど低く、「国民年金基金」で12%、「農業者年金」に至っては 5% と低率だ。活用されていない上乗せ年金制度は事務経費の無駄だ。公的年金でもないので、所得再配分効果も期待できず、用意する意味はない。民間の保険に任せるべきだ。
田中氏の論説を含め、低給付を正すため、自営業者に報酬比例部分の保険料を負担させようという議論がないのは不思議だ。年金制度が、人口の高齢化から、英国風の定額給付(被用者の報酬比例部分給付をカット)に変わるのは時間の問題だ。その場合、給付額は単純に年金保険料総額を被保険者数で割ったものとなる。原資の確保が最重要事項だ。英国では 2016年の年金改革以前の旧制度の時代から、国民保険〈National Insurance〉として自営業者からも報酬比例部分を徴収していた。徴収は税金と同時なので、取り漏れや、不公平感はなく、2016年に1層型の定額年金制に移ったのちも(=給付面での報酬比例部分はなくなったが)、自営業者からの報酬比例部分の保険料徴収は継続されている。
年金制度破綻と
1層型定額年金化
「年金制度が破綻する」という意味は、年金がなくなるという意味ではない。そこまで急には進まない。英国が先行している報酬比例部分の給付を放棄した「1層型定額年金」(満額が定額)への移行が実は破綻だ。英国では2016年から、給付水準を維持するため新しい年金制度が導入されたが、これが日本の年金制度の将来の姿かもしれない。英国には自営業者の報酬比例部分の年金保険料納付があったため、現在の日本の被用者の平均給付額程度の支給が維持されているが、自営業者が保険料を納付していない日本でこれがうまくいくか疑問だ。年金は年金保険者の財産であり、形式上賦課方式であるからといって他世代から与えられるものではない。負担は公平にして、所得再配分効果を生むため、日本でも自営業者の報酬比例部分の保険料を急ぎ義務化すべきだ。
昭和61年の国民年金「財政調整」の際、自営業者の報酬比例部分の保険料徴収をなぜやらなかったのだろう。1層構造の「定額年金」でも、破綻に直面したのなら、報酬比例部分の徴収開始は当然だろう。この経緯を説明できる文書は発見できていないが、この意味での、本当の改革が実施できていたなら、厚生年金を国民年金と一体化する必要はなかったかもしれない。