若者に贈る年金早わかり/日本の年金/年金用語異論

日本の公的年金
厚生年金と国民年金

日本の公的年金システムは、歴史ある厚生年金」と制度設計に失敗した国民年金」からなると、本シリーズでは繰り返し述べてきた。公的サイトの国民向け説明は、①基礎年金制度の導入でカオスとなった年金システムを、②表面上矛盾なく、国民に周知させるため、場合によっては、③用語の不統一も厭わず、(ある意味)分かり難い告知形式で書かれている。

例を挙げてみよう。
➽ 「マンガで読む公的年金制度 第04話」(厚生労働省)
➽ これについての批判は、若者に贈る年金早わかり/日本の年金制度/基礎年金とは何か に展開した。

日本の公的年金制度を「基礎年金」と「厚生年金」と説明するのは、1,370万人の国民年金・第1号被保険者の立場を無視した誤った態度だ。国民年金・第1号被保険者は、いわゆる「国民年金のみの披保険者」で、自営業者・自営農業者・フリーランスが含まれるが、彼らの公的年金は、被用者(サラリーマン)の2層型(2階建て)年金とは異なり、報酬比例部分のない1階部分のみの定額年金だ。これを、公的サイトでは「国民年金(Japanese National Pension System)」と呼ぶが、彼らには、国民年金法で謳われた「国民の共同連帯(共済=助け合い/所得再分配)」(第1条)も「必要な給付>」(第2条)もなく、驚くほど低額の年金しか受給できない。

豊かな自営業者や自営業農家には、納付も給付も低額のこの年金は「おまけ」のように映るだろうが、低所得層にとっては、所得再分配機能を持たないこの年金は、相対的に負担が重く、「逆進性」の年金と問題視されている。

厚生年金と国民年金を合わせて「月15万円」を受け取れる人は全体の何パーセント? といった記事、…意味わかるかな。

(問題点)用語「国民年金」をここで用いるのは問題だ。「基礎年金」または「老齢基礎年金」とすべきで、厚生年金と国民年金、両制度の歴史を正しく理解していないことの表れだ。また、用語「厚生年金」は、本来、基礎年金部分を含んだ被用者の2層型年金システムの呼称だ。最近では、前述の厚労省サイトにあるように、被用者年金システムの「2階部分(報酬比例部分)」を指すこともあるようだが、誤解を防ぐためには、法令中で定義された「老齢厚生年金」という術語を用いるべきだ。ともあれ、この見出しは、何通りにも解釈出来て、読者の頭を混乱させる。

➽ 正しい表現は
①厚生年金(基礎年金を含む)を「月15万円」を受け取れる人は全体の何パーセント? or
①老齢厚生年金と老齢基礎年金を合わせて、「月15万円」を受け取れる人は全体の何パーセント?
となる。この質問は、被用者(サラリーマンなど)の年金に関する問いで、国民年金制度・第1号被保険者(国民年金のみの加入者とも言われる)についてのものではないが、ここに「国民年金」という用語が使われると、自営業者の年金についての話題であるかのような誤解が生まれる。このような齟齬から、(自営業者の)国民年金が日本を代表する年金と誤解して論じた記事を、次に紹介する。

欧州には「年金が月100万円」という国もあるのに…「年金で暮らせない国ニッポン」惨状の元凶 :国民年金制度・第1号被保険者(国民年金のみの加入者)の年金を日本の代表的年金と思い込んだ記事。被用者(サラリーマン)の厚生年金を完全に無視している。
➽ 批判を、若者に贈る年金早わかり《スペシャル》【英国の年金制度】 で展開した。

上乗せ年金制度
日本の自営業者(国民年金・第1号被保険者)の公的年金にも、任意加入の上乗せ制度がある。「国民年金基金」や「農業者年金」がそれで、年金制度2階部分に相当する上乗せ制度だ。農業者年金は公的年金に分類され、国民年金基金も公的機関が運営する上乗せ年金で、上限額で加入すれば、共に、中堅クラスの被用者の厚生年金(老齢基礎年金+老齢厚生年金)に相当する年金が受給できる。ただし、任意加入なので、加入率は低く、国民年金基金で12%、農業者年金で5%程度と言われる。事務経費が公費であることを考えると問題とも感じる。

任意加入の上乗せ年金が利用されにくいのは海外でも同じで、英国では、上乗せ年金制度(1層型定額年金制度なので事情が異なり、報酬比例部分のなくなった被用者年金に対する個人加入の上乗せ年金制度となるが)は、半ば義務化され、加入するのが当然に見えるシステムとなっている。このような加入促進策は、日本の被用者年金(厚生年金)の3階部分に相当する「企業年金」にも見られ、強制ではないが、加入率は7割と高い。(厚生年金被保険者の7割、企業としては、大企業の9割全体でも52%の会社が加入している。)

中国の年金制度(5億人の農民は月5,000円だけ、中国が放置し続けた”年金格差”の実態)で、中国の年金制度が紹介されているが、そこでも、日本の国民年金(第1号被保険者、自営業者等)に相当する農民年金の問題が指摘されている。制度設計も問題だが、上乗せ制度を用意しても、任意加入ではほとんど活用されないという点も日本と同じだ。

国民年金
国民年金法(公布1959年4月16日)の 第1条・第2条で定義されていて、条文は次のように述べている。

目的: 国民の「老齢、障害又は死亡」によって生活の安定が損なわれることを、国民の「共同連帯」によって防止する。
定義: 前述の目的を達成するため、国民の老齢、障害又は死亡に関して必要な給付」を行うもの。


共同連帯は、共に助け合う、共済を意味し、今風に言えば、所得再分配を宣言したものだ。年金の定義では、「国民の老齢、障害又は死亡に関して必要な「給付」を行うものとなっていて、英語表記(公式)でも、Japanese National Pension System とされているので、国民年金は 年金を給付する「制度」を指すものと理解される。
基礎年金制度
昭和60年[1985]の法律改正に基づき、昭和61年4月に施行された「国民年金法の一部を改正する法律」による日本における公的年金制度の基盤となる仕組みだ。

被用者の年金(旧共済年金を含む厚生年金)と自営業者の年金(国民年金制度)を一体化したもので、公平化を図ったと言うが、自営業者には報酬比例部分の納付義務も受給資格もない歪なシステムで、「財政調整」という厚生年金による国民年金制度救済の意味合いが強い改革だった。この制度では、被保険者を次の3種に分けている。

<第1号被保険者>自営業、フリーランス、学生など。自分で定額の保険料を納める必要がある。
<第2号被保険者>会社員、公務員など。厚生年金に加入し、保険料は厚生年金として給与から天引き
<第3号被保険者>第2号に扶養されている配偶者(専業主婦・主夫)。扶養者の厚生年金に含まれる


➽ 「基礎年金」、正しくは「老齢基礎年金」(正式英語表記 Old-age Basic Pension)について、厚生労働省のサイトには「国民年金(基礎年金)」と記載してある。公平な年金と言う考え方からは、ちょっと意味が分からない記載で、「国民年金(基礎年金)」を文字通り解釈すると、国民年金・第1号被保険者’(1,370万人)は、基礎年金だけの低額・定額年金受給者で、それ以上は期待できないよ、ということになる。制度改革を準備中ならまだしも、これでは法の精神(国民年金法・第1条)に悖るだろう。
2つのルーツ(共済年金を加えると3つのルーツ)
日本の公的年金制度には、納付構造・給付構造ともに異なる2つのルーツがある。この2種の年金システム(①厚生年金システム/②国民年金システム)は誕生時期も、歴史的背景も異なる、全く別物の年金システムで、昭和60[1985]年までは各々別々に運用されていた。誕生時期や歴史的背景については公的年金の歴史を参照していただくとして、各年金システムの特徴をまとめると、「厚生年金システム」(旧共済年金システムを含む)は納付・給付ともに「報酬比例部分」を含む、所得再分配型の年金で、保険料は給与から天引きされ、雇用主にも同額の保険料負担義務がある。これは、当時としては、世界的にも標準的な年金システムだった。これに対して、昭和36[1961]年に発足した「国民年金システム」は、納付・給付とも定額で、報酬比例部分がなく、所得再分配効果の期待できない、ちょっと変わった「定額年金システム」だった。報酬比例部分のない年金システムとなったのは、個別に納付するスタイルでは収入把握が困難だったことによるのではないかと推測される。当時は、納税と同時の納付など考慮されておらず、マイナンバー制度もなかった。報酬比例部分のない、納付が定額の年金システムを採用したことで、給付も定額かつ低額(報酬比例部分なし)となり、生活するには困難な低額年金システムとなってしまった。
国民年金システムはアップデートが必要だが、40年間そのままになっている。